箱根山
天下の嶮といわれる箱根山はまたケンカのケンでもある。勢力を張り合う西郊鉄道と南部急行の長年にわたるイザコザから旅館同士の反目まで……。足刈にある二軒の旅館、玉屋と若松屋は血縁同士なのに先祖代々百五十年間というもの犬猿の仲。玉屋の女主人里は、九十にとどこうという年だがカクシャクたるもので、大番頭小金井と温泉を掘りあてようと若松屋に対する敵意をかきたてている。一方、若松屋の主人幸右衛門はインテリで考古学に凝り、旅館稼業にはあまり熱を入れてないのだが、こと玉屋に間しては対抗意識がもえあがる。ところが、こともあろうに幸右衛門の一人娘明日子の家庭教師に玉屋の若番頭乙夫を頼まねばならぬハメになった。乙夫はあいの子だが、里に育てられ玉屋の跡つぎにと期待されている。若い二人は大人たちのメン*などどこ吹く風、いつか心を通わせるようになった。夏場をひかえたある日、玉屋か...