濡れた逢びき
中口守吉は郵便局の臨時集配人である。町まで三時間、東京まで一日がかりという山の集落で二十五歳の青春を持てあましていた。ある日、守吉はたまたま同じ郵便局に勤めるかね子が隣村の近藤に騙されて自殺しようとしているところを見た。しかし、守吉も配達をサボって郵便物を捨てようとした現場をかね子に見られてしまった。お互いの秘密を知った二人は、それ以来**に親しくなり、貯水池の近くの木蔭で、二人だけのもうひとつの秘密を持ったのである。そんなとき、近藤はかね子に騙され、彼女の持っていた劇薬を狂言自殺用の薬と思って飲み、死んでしまった。ドンファンだった近藤の死に誰も不審に思う者はなかった。ある日、郵便局長の多良が、かね子と守吉の二人に縁談を持ち込んできた。皮肉なことに両方とも良縁で、かね子は大学出のハンサムな青年にポーとなり、守吉の相手も、かねてからモーションをかけてい...