高校三年生
朝の風を切って、桜ケ丘高校自転車通学の一群が、ペタルを踏みながら、軽やかに走る。小杉知子もこの一群に交じる高校三年生だ。知子はクラスきっての人気者だ。老舗である織物問屋の知子の家は、のれんと同じく、考え方も古く、長女の澄子が恋人瀬木登と家出したことは一家の大問題となっていた。とくに祖母の梅乃の権幕は強く、両親の太蔵、律子のうるたえようもひとかたではなかった。こんな時、平気で権力の座に坐る祖母に刃向うのは知子だけであった。そして、姉の味方になって励ますのも、知子であった。クラスメートの本多宏の家に下宿している姉夫婦を知った知子は、宏の家を訪れ、宏の父がなきあと、母の静子が寿司屋で動きながら、宏の大学入学だけを楽しみにしていること、そして宏は一日も早く社会に出て、母の手助けをしたいと思っていることなど聞かされ、知子は好意をもった。一方学校では、小路と担任...