愛と悲しみと
西伊豆の蜜柑山に母伸子と住む由紀子は、東京の医学生武との間に縁談が進んでいる。彼女の姉弥江子も年下の武を好きだったが、三年前、鷹野と結婚した。休みを利用して武は伊豆へ来た。由紀子の理想は、この丘で小さな保育園を開き、武の病院を建てることである。台風に見舞われた蜜柑畑で、二人は衝動的に接吻をかわした。翌日、北海道から弥江子が娘民子をつれてやって来た。肋膜を患ってからファイトを失い、牧場にこもっている夫との生活にあきたらず、東京で華やかに生きたいのである。東京に帰った武の下宿を、北海道へ戻る弥江子が前ぶれもなく訪れた。銀座で食事をして、武は弥江子を上野駅に見送った。楽しい夏休みを、武は由紀子の家で送ることにきめた。そんなある日、夫と衝突した弥江子から、迎えに来てほしいと伸子に電報が届き、武が代りに北海道へ向った。札幌駅に武を出迎えた弥江子は、夫の貯金を盗...